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中国語辞典レビュー:第五回『東方中国語辞典』東方書店

はじめに:

筆者は中国語学習歴4年のいわゆる初学者であり、ここに挙げる内容はあくまで個人的な感想であり必ずしも正確ではないことをご理解願います。

 

『東方中国語辞典』東方書店

親文字数は異体字を含め約11000、見出し語は約42000。

辞書としては中規模だが、学習辞典としては突出したものがある。

 

何よりも、辞書全体での例文の数が明らかに多い。重要語の収録とその用法の明示に特化しており、学習者にとって非常にうれしい構成になっている。

 

また、本書の強みはそのコラムの豊富さにある。

 

コラムでは類義語の解説や中国に関する情報のほか、「コミュニケーションバンク」と称して多くの決まり文句をまとめている。『酒』のコラムにおける、“烟酒不分家”などは汎用性が高そうである。

 

類義語のペア数は他の辞書に比べてかなり多い。汉语、中文、普通话、中国话、华语の違いまで解説している辞書はなかなか見られないだろう。

 

「単語セレクト」では場面別の単語を羅列している。『医療』の項では50単語が用意され、“埃博拉并”エボラ出血熱や“疯牛病/牛海绵状脑病”狂牛病などが並べられている。明らかに日常の病院で使う想定ではないのは注意。

 

付録もかなり豊富で、その中には世界の国や地名の中国語名が収録されており、地域別、ピンイン順のそれぞれで検索が可能。日→中の検索がないのが少し残念。

 

巻末には小規模ながら日中辞典がある。小規模とはいえ約一万語を収録し、小学館第2版の8000語に比べて規模は大きい。

 

総じて、網羅的な中国語辞典としては少々もの足りないものの、学習辞典としての機能は非常に高く、初級~中級の学習者には特に強くお勧めしたい一冊である。

 

 

個人的には筆者が一番お世話になっておりかつ一番気に入っている中国語辞典でもある。というのも、巻頭に中国語の色に関するコラムが載せられているのだが、そのエリアはフルカラーで構成されている。これから中国語を学ぼうと本書を開いたとき、中国の鮮やかで艶やかなな文化を除くことができてとてもわくわくさせられるのである。

 

余談だが、同じく東方書店から『「東方」辞典シリーズ』と題し『東方広東語辞典』と『東方台湾語辞典』が出ている。少々値段は張るが、中国語に触れていくうえで是非とも手元に置いておきたい辞書たちである。(筆者はまだ台湾語辞典は持ってません。欲しい......)

 

次回は『現代中日辞典』光生館の予定です。

 

中国語辞典レビュー:第四回《现代汉语八百词》商务印书馆

はじめに:

筆者は中国語学習歴4年のいわゆる初学者であり、ここに挙げる内容はあくまで個人的な感想であり必ずしも正確ではないことをご理解願います。

 

 

ある程度中国語に慣れてくると扱いに困るのが介詞や補語である。

《现代汉语八百词 增订版》商务印书馆 
中古で買ったので少し破れてる...

本書はいわゆる虚詞(介詞、助詞などの機能語)に特化した文法用例辞典である。

 

本書は中国語で書かれているため中級者向きではあるが、東方書店から『中国語文法用例辞典』として日本語訳版が出ているので安心してほしい。

 

収録語数は約1000語で、実詞(名詞などの内容語)の規範を《现代汉语词典》にとるならば、本書は「虚詞の規範」ともいうべき名著である。

 

すべての見出し語に例文が付されており、またその一つ一つの説明が非常に丁寧で

詳しい。

 

さらには中国語の文法の要点も書かれており、その内容も詳しい。専門用語が非常に多く初学者には向かないが、中国語を研究の対象とする者ならばぜひ手元に置いておきたい。

 

ちなみに、学習者泣かせの“了”の解説には8ページもの紙面を割いている。そのほか方向補語や結果補語の解説もしっかり書かれており、まさにかゆいところに手が届くといった内容である。

 

また付録として名詞と量詞の組み合わせが書かれている。その例は名詞およそ400通り分。

同様に形容詞の変化形も一覧で付されている。

 

これらは中国語を学ぶ上での初心者泣かせであり、本書はそのような難しいニーズに真正面から応えてくれている。

 

難点としては、資料としての難しさである。増訂版は1999年出版と少々古く、文法解説は非常に簡便ではあるものの、少し古臭さがのこっている。最新の解説を参照する場合にはあまり適さないだろう。

 

総じて、中級者~が虚詞の用例確認のために参照するうえでは非常に有用な工具書であると言える。

 

なお、筆者は卒論執筆の際、本書に大いに助けられている。出版年が古いとはいえ、今でも研究などで時折参照されており、その地位はもうしばらくはゆるがないだろう。

 

次回は「東方中国語辞典」東方書店の予定です。

中国語辞典レビュー:第三回『岩波中国語辞典 簡体字版』岩波書店

はじめに:

筆者は中国語学習歴4年のいわゆる初学者であり、ここに挙げる内容はあくまで個人的な感想であり必ずしも正確ではないことをご理解願います。

 

※本記事では声調を数字で表記しています。

 

 

中国語を学ぶのにほぼ必ずと言っていいほど学ぶのがピンインであろう。

『岩波 中国語辞典 簡体字版』岩波書店

1963年初版(簡体字版は1990年)とかなり古い。序説に「中国には、すべて52の民族があって」と書いてあるほどである(2023年現在では56民族)。

 

本書では見出し語としてピンインアルファベット順を採用しているが、見出し字がない。つまりは完全に発音のみで並べている。たとえば、shan1ge1“山歌”の次にshang1e2“上颚”が並んでいるといった具合である。見た目では英語辞典に近い。

 

この方法は、小学館東方書店などの辞書を愛用している方には違和感があるかもしれないが、発音で直接検索できる分慣れるとかなり早く調べることができるという利点がある。この方式は『標準中国語辞典』白帝社でも採用されている。

 

用例にはその一々にピンインが書かれており、とても見やすい。

 

また本書では文字を持たない語であるliang1「なぐる(侠客風の言い方)」などを収録している。

 

上の例を見て、ある程度中国語に慣れた方ならわかると思うが、本書では現在他の辞書では載せていない音節を持つ語が載っている。

 

試みに、中国の規範的字典の一つである新華字典と比べてみると

*ra,*no,tei,*cei,*sei,★bia,★pia,★biang,★piang,★diang,★tiang,lüan,lün

の音節が確認できる。

※*はある語の別の発音(一定の状況下での発音あるいは方言発音(おそらく北京方言))、★は擬音語のみ

 

逆に、dia3“嗲”は載っていない。

 

これは現場で得られたデータをそのまま辞書化したことで起こったらしく、ある意味で実践的な発音のようだ。

 

このほかに本書ならではの特徴として一部の語彙に方言あるいは専門用語にマークを付け、ランク付けをしている。

  • 古典のなかのことばが、たまたま耳で聞くことばの中に引用されて現れるもの
  • 古典のなかのことばではあるが、耳で聞くことばの中に混用されているもの
  • 学術その他の専門の言葉で、一般には広く使用されていないもの
  • 文学作品などに現れることば
  • ラジオ・テレビ・講演などで話されることば
  • きわめて普通なことば(マークなし)
  • ややくだけた言いかた(いわゆる北京語)
  • 北京の下町のことばスラングなど
  • 特殊な社会で使用される仲間ことば、隠語など
  • 他人にたいする悪口のことば
  • 北京以外の方言から流入して、いちおうは北京でおこなわれていることば

以上11の区分を行っている。これは他の辞書では中々見られないものである。

 

さらに巻末には意味による索引が用意されている。全146種の意味が用意されており、たとえば「軍事」の項からニトログリセリンとその発音mian2hua1yao4を見つけ、“棉花药”にたどり着くことができる。

検索先は日本語とピンインが書かれ、中国語が書かれていないため少し見にくい。

 

(なお、調べてみるとニトログリセリンは“棉花药”ではなく“硝酸甘油”である。"棉火药"のことを言っているのかもしれないが、いずれにせよ、精度には不安がある。)

 

 

以上のように、見出し語の並べ方や収録している語の性質からして非常に実践的な使用を想定した辞書といえる。

 

総じて、一昔前の文学を読むのためにそばに置いておく分には問題ないが、これから標準中国語を学ぼうという初級~中級者には基本的におススメできない。

 

 

 

.....................個人的には、授業で出てくる一昔前の文学作品を読むのにとてもお世話になった。

 

 

次回は《现代汉语八百词》商务印书馆の予定です

 

中国語辞典レビュー:第二回《成语通检词典》中华书局

はじめに:

筆者は中国語学習歴4年のいわゆる初学者であり、ここに挙げる内容はあくまで個人的な感想であり必ずしも正確ではないことをご理解願います。

 

中国語に慣れてくると色々な成語、ことわざに出会い、調べるのに苦労することがあるだろう。あるいは作文をするのに成語で格好つけたいなんてこともきっと多いはず。そんな時に使いたいのが成語辞典。

《成语通检词典》中华书局

 

本書は中国語で書かれているため初心者には少し難しいかもしれない。

 

収録成語は9592条。なお実際には、“'拭目而待'は’拭目以待‘を見ろ”という(いわゆる近義、類義)のがかなり多いのでもう少し少なめともいえる。

 

それ以外の成語にはすべて出典が書かれており、本義と引申義(派生義)ともに確認ができる。出典以外の例文はほとんどない。

 

並びはピンインアルファベット順。

 

 

 

.........と、ここまではよくある成語辞典と同じだが、本書の特徴はその索引にある。

 

たとえば《中华成语熟语辞海》学苑出版社や《中国俗语大辞典》上海辞书出版社での索引は首字のピンインと画数である。

 

対して本書では以上の二種のほかに、任意字索引と意義索引が用意されている。

 

任意字索引は使われている字からの索引である。たとえば"蛇"の検索から"虎头蛇尾"にたどり着くことができる。

 

これは一見すると使い道のないように思われるかもしれない。だが、たとえばちょっとした作文の中で洒落た言い回しをしたいときには非常に便利である。

 

意義索引では6編30類362項の区分が用意されており、場面に合わせた検索が可能。作文時に大いに役立つ。

 

ここまで見てわかるように、本書は学習面に力を入れた成語辞典なのである。

 

なお、成語は数万あるとも言われ、さらに常用のものは非常に限られる。その意味では本書は日本人学生にとって明らかにオーバースペックである。

また9592条という数字からもわかるように、本書はあくまで中型レベルのものであり、内容は網羅的ではない。とはいえ、日本語だと5000条を超えるような成語辞典はかなり限られるので、持っておいて損はないと思う。

 

(日本語の成語辞典を軽く見てみると、意義索引、任意字索引を使っているのは北村亮介(2012)『成語へのアプローチ』風詠社があるが、収録数は852条と少し物足りない。数で言うなら牛島徳次編(1994)『中国語成語辞典』東方書店が約8500条収録している。このほか学習向けに約1000〜4000条程度の成語集が複数出ている。)

 

 

............個人的なことを言えば、筆者は作文時によく本書にお世話になっているが、ほとんど覚えていない。

 

 

次回は『岩波中国語辞典 簡体字版』岩波書店の予定です

中国語辞典レビュー:第一回『中日辞典』小学館

はじめに:

筆者は中国語学習歴4年のいわゆる初学者であり、ここに挙げる内容はあくまで個人的な感想であり必ずしも正確ではないことをご理解願います。

 

 

「中国語辞典は何がおススメ?」と聞かれたらとりあえず挙がるのが小学館の中日辞典であろう。

『中日辞典』小学館第3版~初版

 

本書は商務印書館との共同編集で、内容も網羅的であり、とりあえず持っておいて損はない辞書といわれる。

 

初版では以下のような特徴がある(★はすべての版に見られるもの)

  • ピンインのアルファベット順
  • 見出し字は異体字・多音字含め約13000、見出し語は約85000
  • 各アルファベット音の初めに手指字母が描かれている
  • “步”、“请”など一部の見出し字にのみ総画数が与えられている
    • おそらく重要語でありかつ日本の漢字と似ているが画数が違う場合のみ
  • ★重要語は星印で重要度ごとにマークされている
  • 各音節ごとに同音字早引きコーナーがある
  • 見出し字にGBコード番号、中国電信コード番号を表記
  • 表紙裏の地図は北京、上海、天津と北京周辺、中国の全体がある
  • 文化に関する知識はコラムでなく見出し語の解説として載せてある
    • たとえば“语言游戏”(言葉遊び)は“语”の項にある
  • “★请假条”(休暇願い)などでは実際の例が挙げられている
  • 大陸の標準字形に準じておりかつ重要語彙を優先しており 、“䗩”など載っていない字もある
  • ★医学などの学術用語の記載がある

 

第2版では初版との変更点として以下の点が挙げられる

  • 見出し字は約13500、見出し語は約100000に増加
  • 手指字母表記の廃止
  • すべての見出し字に総画数の表記
  • 重要語や解説に赤字が使われている
  • 同音字早引きはyiなど一部の字音のみ
    • おそらく一定以上の同音字をもつ場合のみ
  • GBコード番号、中国電信コード番号表記の廃止
  • 表紙裏の地図は中国全体のみ
  • コラムの大幅な増加
  • 巻末付録の追加
  • プチ日中辞典の追加

 

第3版の場合、第2版との変更点は

  • 見出し字は約14000、見出し語は約100000に増加
  • 同音字早引きの廃止
  • 囲み記事、特に動作動詞、類義語に関するコラムの大幅な増加
  • 巻末付録の大幅な増加
    • 第2版でコラムだったものの一部がこちらに移動している
  • プチ日中辞典の廃止
  • 『通用規範漢字表』に基づいて一部の見出し字は一級~三級の表示がある
  • 品詞の表示対象が名詞、形容詞、動詞にも拡大

などが挙げられる。

 

小学館の中日辞典では一部の項では類義語との比較解説が行われているほか、全体的に文法などに関する解説が多く、また文化などに関するコラムも豊富で、学習辞典としての使用に最も効果を発揮するといえる。同じような学習者向け辞典も多いが、本書は見出し語も非常に多く一般辞書としても使い勝手がいい。重要語の項では例文が書かれており、使い方を知るにも便利である。なお日中辞典としての使用は第2版しかできず、その規模も非常に小さいので、必要であれば同社の『日中辞典』などを別に用意するのが無難であろう。

(※筆者は編集時点で日中辞典を一冊も持っていません。)

 

中国語辞典は多くの場合字書としての性格も持つことが多いが、本書はその性格が特に強い。とはいえ、当たり前ではあるが、本格的な字書には到底敵わない。

 

全体的にあくまで標準語辞典としての性格が強く、異体字への対応力には難がある。また方言的な言い回しにはほとんど歯が立たない(例えば“粥”に対応する動詞は“喝”しか書かれていないなど)ため注意が必要。

 

なお、時代の変化に伴う収録語の増減が少なからずあるため(例えば“刘”の項を見ると“刘寄奴”は初版にのみ収録されている)、一定以上の中国語レベルの方にはすべての版の併用をお勧めする。

 

総じて、標準的な現代中国語を学ぶ上では非常に使い勝手のいい辞書であるといえる。

 

 

 

............個人的には、中国語の試験などで辞書の持ち込みが許可されている場合にはとりあえず持っていくべき辞書の一つだと思う。

 

 

次回は 《成语通检词典》中华书局 の予定です。